想像の及ばない合理性の世界へ

地理人(今和泉)は、東京経済大学コミュニケーション学部「未来身体ワークショップ2019」のゲスト講師として「空想地図ワークショップ」を実施しました。過去20回以上開催している空想地図ワークショップを、今回の授業に合わせてアレンジしたものです。
※講師: 安斎利洋先生 実施日:2019年11月20日(水)・27日(水)

この講座は、出土したオブジェクトのいくつかをとりあげ、途絶えた文明の生活と文化を考察し、追体験していくプログラムです。時は3020年、いまから1000年後の設定で発掘調査を進めます。講座ではここまで、一本の棒、一枚の布、一本の木炭…といったシンプルな物体が、1000年後の発掘調査だと、どんなことが読めるものとなるのか、解釈の試行錯誤を進めています。

地理人からは「3020年に出土した地図」を作るという課題を出しています。土台として現在(2019年)の国分寺の道路や建物が薄く書かれた紙を土台にし、大小さまざまな形の建物が描かれた地図シートや色画用紙を切り貼りして、1000年後に出土された地図を作り進めていきます。

地図の土台シート(現在の国分寺・東京経済大周辺)※国土地理院「数値地図」を加工

地図のパーツシート(さまざまな建物や地域、風景のパーツ)※国土地理院「数値地図」を加工 ※一部のシートのみ例示

そして、こうしてできた地図とともに、出土された他のモノを調査し、1000年後の学芸員としてそれを紹介する、というのが今回の課題です。

想像のつかない世界へのアプローチは、足がかりがどこにもないところから始まります。経路も目的地も交通手段も分からない、つまり何一つ定めるところのない旅のような発掘調査ですが、その進め方は人それぞれです。

いくつかのグループに分かれて制作を進めますが、1人グループから4人グループまで、人数も性比も多種多様ですが、進め方のプロセスはそれ以上に多種多様。計画的に仮説検証していくグループもあれば、直感で進めるグループもあります。同じ直感でも、試行錯誤のスタートダッシュが進むグループもあれば、スロースターターなグループもあれば、個々別々の直感と着想で進めるグループもあります。

完成品地図・出土品・レポートはこちら

計画、設計の議論を重ね、それに従い制作を進める

このグループは計画的で、都市、もとい国家、首都がどのような意図で作られ、その結果どのような優劣や分布が生まれ、その恩恵にあやかる体制派と反体制派がどのような動きを取り、対峙するか…といった想像に至ります。最初にこの国家の立場で計画都市を構想し、やがてその国家の立場と、その国家の方針に相容れない立場への想像に及び、想像の範囲を広げていきます。

完成したもの→聖地I.T.O(伊藤、植田、柏崎、大森)

衝動をぶつけてから詰める過程で整えていく

 

一方、全く計画性のないグループもあります。個々が衝動に任せ、マクロに川を定める人、それよりはミクロですが何やらわからない巨大物体から決める人、それぞれの衝動がぶつからずに適度に棲み分けつつ、細かく見ればそれらが合わさるようで合わさりません。試行錯誤が早いため仕上がりが早く、最後の「出土品」調査では、打って変わって静かに考える姿勢に転じています。作り出すプロセスは試行錯誤をぶつけてスピードアップ、ある程度完成像が見えてからは目線を合わせ、考えて検証、という進め方でした。

完成したもの→ネ市(内田菜々絵、大鹿結菜、須藤麻衣、山﨑愛子)

黙々と表現を追求し、二手に分かれて作り進める

圧倒的に口数が少なかったのがこちらのグループ。各々が各々の感性に従い黙々と紙を切って作り進めます。全くやりとりがない訳ではなく、2人は300年前まで繁栄していた地上世界を、もう2人は地上(屋外)に住めなくなった後の(1000年後の)現代を、黒い世界として表現、領域を半々に分けて制作を進め、これを合わせることで300年の時代の変化を追う地図ができています。

この発展した都市には誰も人は住んでいない(戸田、滝口、岡部、天野)

阿吽の呼吸、一定のペースで作り進めていく

こちらも黙々と2人で作り進めまていますが、スタートダッシュする訳でもなく、スロースターターでラストスパートを決めるでもなく、ペースは一定、阿吽の呼吸で進めます。まず4本の大きな川を流してから、できた島の中を淡々と作り進めます。それぞれ異なる色や模様ですが、それぞれの島は川で隔てられて全く移動できず、各時代が閉じ込められているとのこと。

四国川(助川楓、小島奈々)

黙々と自然の脅威に立ち向かう

今回唯一の一人チーム。ところで、私(地理人)も人数自由であれば一人を選びそうなのですが、その話をしたら安斎先生は「私もそう。ということもあって、一人制作でも良いと思う」とのこと。そういえば空想地図ワークショップも終始一人で進めるプログラム。今回はどのチームも川や湖等の水域が広いのですが、彼の水域面積は最大。しかも陸もまた危険で住めないのだとか。だからこそ水域の上に時々重要施設らしきものがあります。

自然に負けた世界(安部 航)

ハイテンションなトライアンドエラーをぶつけ続ける

無邪気なトライアンドエラーは、幼少期は盛んなものです。小学校低学年くらいを境にやめてしまう人が多く、だんだんとパワーは有限になり、有限のパワーをうまく使うべく、思考を入れたり、セーブしたりするようになります。このグループは、10代になって多くの人が忘れた無邪気なトライアンドエラーを繰り返し、モリモリと浮かんだものを入れていきます。結果的にマグマが噴き出しますが、この制作のプロセスこそマグマだったのかもしれません。

マグマのある世界(たかださつき、はしもとなつか、くろだみみ)

感性重視のスロースターター

今回最もスロースターターだったのはこのグループ。最初の写真のように、表情だけは自信ありそうな表情ながら、手が動かず、紙はそのまま…しかし後半で追い上げます。一旦建物がなく田畑が広がる状態になった後、建物が増え人が増えた様相になりました。この1000年で一旦人が減って、また増えたのでしょうか。(過去の日本だと、京都や奈良もそうでした。)表現としては立体地図づくり等表現の試行錯誤を試みつつ、案外穏やかで現実的な仕上がりとなっています。

未来予想図Ⅱ~コ・ク・ブ・ン・ジのサイン~(倉部遼 青木大輔 福島遼太)

正解がないため、完成品の様相は千差万別です。各自、正解や完成像の見えない中で試行錯誤するのは、絶えず手を動かしフルに想像力を使う機会となります。こうしてできたそれぞれの世界を想像することも興味深いですが、それぞれの制作プロセスを見ることで、全く想像の及ばぬ世界への多様なアプローチ方法があることも見えてきます。そして、今回の課題に限らず、想像及ばぬあらゆる状態を想像するヒントにもなるでしょう。

次回の開催情報

未定ですが、開催する場合はFacebookページ(地理人)でお知らせします。「空想地図を作るワークショップ」のような名称でしたらこのプログラムです。

ワークショップを実施したい団体様へ

詳細はこちらからお問い合わせいただければと思います。

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